未来の自分に繋がる一枚

カメラを向けられると、どんな顔をしたらいいのかわからない。
「もっと笑って!」と言われると怒られているような気がするし、ますます表情がぎこちなくなってしまう。そんな経験は多くの人に覚えがあるのではないでしょうか。

そんなふうにたじろいでしまう人にとっては、カメラの前で楽しそうにしている陽気な友達や、ポージングを決めている人たちが、まるで異世界の人のように感じるかもしれません。

実は私もそうでした。いえ、今でも「写真を撮ろう!」と言われたときの心の内には、かすかに動揺している部分があります。
人にカメラを向けてよい表情を写す仕事のカメラマンが、なんとも情けない話に聞こえるかもしれませんね。

では、カメラの前で堂々としているように見える、陽気な友達やSNSで人気のインフルエンサーは、相当な自信家なのでしょうか?
少しも自分の容姿に劣等感を持っていなかったり、自分は写真写りがいいから大丈夫と自負しているのでしょうか?

わたしが思うに、そんな人はめったにいません。
カメラマンを始めて10年が経ちますが、「自分の容姿はパーフェクトで、写真写りも素晴らしいからなんの心配も要りません」という人にはお目にかかったことがないですし、歴史上の偉人にも、自分の容姿に深いコンプレックスを持っていた例をよく耳にします。

ではどうしてそうした人たちは、カメラを前にして自分の欠点が頭になさそうなほど楽しそうだったり、ゆったりと落ち着いて見えるのだろう…と思いませんか。
それには二つの要素があると思います。一つは、カメラマンが写る人をリラックスした気分にさせたり、撮影が何気ないことのように演出しているため。
もう一つは本人の発見と努力で、「堂々としている方がよく写る」「決めているくらいでちょうどいい」という意識を、一見自信家に見えるその人たちが、いつの間にか心に抱いているからではないでしょうか。

例え自信がなくても、恥ずかしくても、それを忘れるくらい堂々と振る舞ってみる。それによって不思議なことに、自分の姿が少々よく見える、悪いもののように感じていた顔のとあるパーツが気にならない場合がある。写真写りが上手な人たちは、そんな経験を持っている気がします。
カメラの前で物怖じしていたら、自分の姿が魅力的に見えないということを、その人たちは体感しているのではないでしょうか。

そうなんです、難しいことを言うようですが、カメラの前で控えめにしようとか、無難にやり過ごそうとするよりも、少し大げさなくらい感情豊かに振る舞ったほうが、多くの人にとって魅力的な一枚となります。
そんな、それができたら苦労しない…と思った方は、どうかご安心を。

カメラマンは撮影前から、写る人の不安を取り除き、その人の写真写りがよくなるライティングを組み、なりたい自分を思い切って表現できるよう工夫をしています。

例えば歯医者さんが何気ない様子で、「今からする治療は痛くもなんともないですよ」というような顔をしながら、「もし何かあったら手を上げてくださいね」と言うのに似ています。
実際には痛かったり、しみたり、あごが疲れたりと散々なのですが、そんな空気感のおかげでいつのまに治療は終わり、綺麗になった歯とともに「今日は何とか大丈夫だったな」という満足感を持って帰ることができるのです。

そう、歯医者さんと同じで、なんだか知らないうちに頑張れてしまう。結果良い写真ができた。という流れを作るのがプロフェッショナルの仕事ではないかと、私は思っています。

ですので、騙されたと思ってカメラマンに撮影を任せてみてください。
きっと、あなたがカメラの前でいつもよりほんの少し自信を持てる、より良い自分を表現できる、そんなきっかけになるはずです。

わたしはこのセルフ・ポートレートを撮ることで、そう確信できました。
撮る前は「本当に上手くいくのか」「納得がいくものができなかったらどうしよう」と不安もありましたが、プロのメイクさんにヘアメイクをお願いし、カメラの前に立ってリモコンを持ったら、あとは「良い写真を撮ること」にひたすら集中するのみでした。

結果、この写真をFacebookのプロフィールに差し替えたとたん、たくさんの「いいね!」を頂くことができ、皆さんから写真表現について共感をもらえたことで、普段の仕事とはまた違った新たな自信を得ることができました。

勇気を持ってカメラの前に一歩踏み出すことにより、コンプレックスだらけの(全ての人がそうなのです)自分自身を克服していく。その過程によって、なりたい自分の姿に近づくことができます。

「写真を撮ろう」と思った瞬間から撮影は始まっています。
衣装を選び、髪型を決め、自分をどう見せたいか考える。
写真撮影という行為は自分と向き合うとともに、まだ見ぬ可能性を拓くと信じています。

その証拠に、プロフィール写真の撮影後、まるで写真の中の自信に満ちた自分の姿に牽引されるようにして、明るくいきいきとご活躍されている方を何人も目にしてきました。

誰もが心のなかに自分を乗り越える勇気を持っていることを信じて、写真によって新しいスタートを切ることができますように。
そして、「未来の自分に繋がる一枚」を手にできますように。
もし私がその一助となれましたら嬉しいです。

ひらはらあい

ポートレート専門のフォトグラファーです。
雑誌、広告、Webなど幅広い媒体で活動中。
まるで自然光のように見えるストロボライティングが得意です。

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